つれつれなるままに日暮らし硯にむかいて・・・
これは、吉田兼好(よしだ けんこう 卜部兼好 うらべ かねよし)の徒然草(つれづれぐさ)の序文の書き出しである。
書道教室に借りている部屋の向かいの学習塾に通う男子中学生のことを、暑い夏と共に思い出した。
数年前に出会った、とても、さわやかな挨拶をする男子中学生は、その様子から、初めて学習塾に通うのだと感じられた。無邪気そうな彼は、期待と不安が入り混じる中、いかにも体育会系の
「こんにちは」
と、挨拶をしてくれた。その後、何度か言葉を交わしながら、彼が学習塾に馴染んでいく姿をみて、「こちらも頑張らないとなぁ」と、励まされたこともあった。
暑い夏のある日に学習塾から、
「つれつ れな まま に・・・」
なんだろう???さわやかな挨拶をする男子中学生の声であることは、すぐにわかった。
先生が読み直されてわかった。徒然草だ。
彼は、
「つれつ れな」ちゃんの「ママに」と理解したのか、そうしか読めなかったのか・・・・・・・。
それから、数か月、どうやら中間テストで成績が上がったと先生に報告していた。
そして、翌々年の春、
「つれつ れな ママ に・・・」と読んでいたなんて想像もつかない自信に満ち溢れた彼は、教室の片づけをしている私に向かって、
「今日は、終わりですか」と尋ねると同時に、
「僕、今日で終わりなんです。さようなら。」
と、さわやかに挨拶をしてくれた。
最後の挨拶も強烈なインパクトだったが、努力することの大切さを強烈な暑さとともに、今年も、彼のことを思い出した。
私が運営している書道教室に通っていたのではないので、彼がその後どうしているか尋ねようもないが、努力することで得られた自信は、その後の人生において、必ず、支えになる。
私は、書道教室でも、書道だけでなく、もっと根本的なところを伝えられるといいのになぁと、当時、中学生だった彼に恥じぬよう願いや思いは、高く、大きく、ふくらませている。